新たな「夢」をカタチにする技術創造メーカー 株式会社HCI

社長のコラム

奥山剛旭社長コラム

by 宮西ナオ子 Presents

宮西: 佐藤先生は昨年、関東工学教育協会賞(論文・論説賞)を受賞されましたね。おめでとうございます。

佐藤: ありがとうございます。受賞論文は、「社会実装による工学教育のあり方」です。実は教育関係の仕事は学校ではあまり行っていなかったのですが、定年後、東京高専で社会実装コンテストにかかわることになりました。
社会実装教育とは科学技術イノベーションを実現できる技術者の育成を目指した教育のことです。
学生はチームごとに自分たちで課題を発見し、新たな価値を考案し、その実現に必要なシステムやロボットの試作を行い、社会へ導入。評価を得るという活動を繰り返し、自らで考えて行動する力を身につけていきます。学生が社会に繋がることの重要性を体感できるということで、ユニークな全く新しい教育として注目されています。
平成23年度より始まり、これまでに21校以上の国立高専の参加実績があります。この試みは学生を奮い立たせるので、これからのロボットSIer志望者のために教育方面でも貢献できたらと思っています。



宮西: 国立高専の学生さんが対象なのですか?

佐藤: そうです。高専教育というのは、日本の教育の中で唯一OECD(経済協力開発機構)からきちんと評価されている教育なのです。そもそも高等教育の評価は、年収、職位、自己満足度で決まるといわれています。つまり年収は社会の評価。ポジションは組織の評価。そして自己満足度は自分の評価なのですが、今の大学の教育はこれに結びついていません。でも高専は結びついているといわれます。それには二つ理由があります。
ひとつは15歳からチームワークを学ぶこと。普通の講義形式の教育では、チームワークを学ぶチャンスがありません。私もチームワークを学んだのは大学4年になってからなので、すでに遅いわけです。もう1つは、手を動かす教育をすることです。つまり頭と手足を動かす教育が大切なわけです。そこで今、高専教育が評価されています。まさにこれからの教育といってよいでしょう。
社会実装コンテストは、最初は1高専の3チームでしたが、だんだん増えて21高専になり、文科省のプロジェクトにも採用されました。今は19高専で71チームとなっています。




奥山: 社会実装コンテストは、具体的にどのような形で展開していくのですか?

佐藤: 最初に課題となるサービスを考えるところから始まります。何を創るべきかオープン課題にしていますので、各チームのメンバーが自分で課題を探し、それに必要なロボットやシステムを作り、現場に持ち込んでユーザーの声を聴きつつ改良して、そのプロセスを発表します。成果というよりも何を学んだかというプロセスを発表することが大事と考え、そのプロセスを評価します。
プロジェクトが動き出したら面白いので、学生たちの心に火がつきます。やる気が出てきます。チームで行うので、講義では得られないことがたくさん学べます。ユーザーに使っていただかなくてはならないので、まずはユーザーの声を聴くことから始まります。頭を下げ、キチンと目を見て微に入り細に入り、要望を聞かねばなりません。
こうしてコミュニケーションン能力も培われていくわけですが、これが本当のエンジニアリングリテラシー教育だと思います。

宮西: 素晴らしい教育法ですね。



奥山: 大賞は決めているのですか?

佐藤: 全体によければ大賞で表彰します。そのほかは構想賞、社会実験賞、それからハードやソフトの技術賞などいろいろなタイトルの賞で表彰しています。社会の厳しさを知らせるためには1位はあったほうがいいと思いますが、その下は各賞を用意して褒めてあげると、やる気が持続しますからね。

宮西: モチベーションが大切ですよね。

佐藤: 科学技術イノベーションという言葉がありますが、まずグランドデザインが必要です。産業ロボットの側で説明しますと、最初にロボットを使って工場をどのように変えたいのかという信念がないといけません。科学技術イノベーションの実現には時間がかかるので、その間、右往左往してしまいます。それに加え、資本主義の世の中なので、ビジネスモデルが必要です。グランドデザインとビジネスモデルという異質なものが一つのものに統合されてロボット製作され、それを宣伝して、必要であればマーケティングやロビー活動をしていくことになりますね。




宮西: 佐藤先生は大学院の学生さんたちにもユニークな教育方法を提唱されているとか。

佐藤: マスターの2年生になったときに、学生たちに2つのことをいいます。ひとつは今までのやり方を全部変えなさいということ。彼らは東大まで来ているので点数はよいのです。今までの教育では不得意なところを無くすのが成績のよい学生のやるべきことでした。だって得意なところは100点しかとれないですからね。そして無駄を省き、なるべく効率よく色々な知識を入れるという勉強をしてきたはずです。でも大学院まできたのだから、それをひっくり返します。なるべく無駄をする。不得意なところを捨てて、得意なところを伸ばせといいます。何故ならやがて社会に出たら得意なところ、つまり人より飛び出したところしか評価されないからです。

奥山: だから、「得意なところだけ伸ばしなさい」ですね、共感します。

佐藤: これは大学院まで通った人にしか言えないことです。それまでは成績があるので不得意なこともやらなくてはならないから仕方がない。でもこれまでの教育の弊害で今の学生は好きなことを見つけられなくなっている。それを補正するのに時間がかかっているのが実情です。




佐藤: もう1つは、もし今50万円あったら買いたいものがあるかと聞きます。これはみなさん、色々あると思います。それなら500万円なら? 5000万なら? 5億だったら? 5兆だったら?と聞いていくわけです。夢の実現はお金が関与します。
自分の夢は何兆あったら実現できるかを考えておくことです。例えば学園都市を創るならば2兆円、新幹線を敷くには4兆円かかります。そのような大きな夢を描いて取り組んでほしいと思います。

宮西: 社会のために使うお金になりますね。

佐藤: 時代が変わりました。僕の受けた教育は指導教官の後ろ姿を見て学んできましたが、今は時代が成熟し、組み合わせの価値が生まれています。例えばレコードとレーザーを組み合わせてCDを創る、無線通信と電話を組み合わせて携帯電話を創る、携帯電話とインターネットを組み合わせてスマホを創る……。このような組み合わせ価値の創生は、一人の人が考案するより1000人の人が考案したらどうでしょう? 1000倍可能性が広がります。時間も短縮でき、より価値の高いものが生まれます。ということはたくさんの人に参加してもらうことが大切です。そのための教育が必要です。今や学歴社会から学習歴社会に変わりつつあります。すでに学んだことがどんどん古くなる時代にあって、学び方を学ぶことが大切なのです。そういう意味で教育を変える必要があります。ですからこのようなコンテストが大事です。学び方を学べるからです。




奥山: ロボット教育については、どうお考えですか?

佐藤: 小学生からロボット好きにすることですね。ロボットに対して好奇心をもってもらえるようにする教育です。例えばドローン作りなどを奨励する。中学、高校生になるとロボット好きをロボットが得意にしてもらう。さらに大学になるとロボット社会実装にまでもっていく。ここで初めてロボットの難しさを教えてもいいでしょう。加えて生涯にわたって教育と就労を交互に繰り返すリカレント教育や経験を体系化して学んでもらうことも必要です。その一環としてロボットアイデア甲子園はすばらしい試みだと思います。

奥山: ロボットアイデア甲子園は、産業用ロボットの見学と講義を行い、アプリケーション開発の素晴らしさに気付いてもらい、自由な発想を期待しており、佐藤先生による「アピールするプレゼンテーションを行うために」と題した講座より、プレゼン能力の向上を目指しています。大阪大会では、大阪府や各市の教育委員会の方や沢山の教育者が会場に来てくれました。このような催しを全国47都道府県に展開する目標で進めていますが、現時点では、是非、うちの市でもお願いしたいという市はたくさんありますが、その市にロボットセンターが無いという問題もあり、市や教育委員会からの申し入れはあっても、なかなか受け皿が無い状態です。しかし、私達の考えに共感してくれるロボットSIerによるロボットセンターは増えており、2020年はコロナウイルスにより中止としましたが、2019年の開催が10地区であったところ、2020年は17地区の開催予定でした。(第2話終了)

コメント
今回の対談では今後のロボット教育についての意義深い対談が行われました。これは広く「教育」全般の在り方についても通じることではないでしょうか。自分の得意なところを伸ばす、好きなことで無駄をすることも学びのひとつ。5億や5兆のお金の使い方を考える、夢をお金で具体的に考えてみるなど、今までとは異なる教育論の下、育まれるであろう独創的な叡智が楽しみです。次回はいよいよ最終回です。お楽しみに。